第70章 さよならを
そんなやり取りをしているとブレザーのボタンを取られたのか前が閉まっておらず、ネクタイの外れた涼太が現れる
「あー名前っちと2人きりになりたかったのに!」
「それならもっと早く来るのだよ」
「女子にボタンくれって追いかけられちゃって…でも名前っちにこれは取っておいたっスよ!」
『ネクタイ…』
「緑間っちと紫原っちもあげたんスか?」
「欲しいと言われたからな」
「そー」
珍しく察しがいい。違う、彼は勉強が出来ないというか、しないだけで人の表情の変化には割とすぐ気が付き方だと知っている
頼んでもないのにネクタイを取っておいてくれたことが嬉しくて、下唇を噛んだ
「…名前っち、どうしたんスか?」
『何でもない』
「女の子の何でもないは何かあった証拠っスよ?」
『こういう時だけ女子扱いしないでよ』
「オレは普段から女子扱いしてるじゃないっスか!はいあげる!」
涼太からネクタイを受け取る
代わりに彼に渡すならこれかなと思っていた右耳のピアスを外し、ネクタイを持っていた彼の手にそのまま乗せた
元々涼太からもらったものだから返すのと変わらないが、この半年間身に着けていた大事なものに間違いない
『はいこれ、あたしだと思って大事にするんだよ』
「え、いらないってことっスか…」
『ううん。預かっててもらおうかなって』
涼太のネクタイも緑間のに比べてよれているし、何ならほつれているところもある
まあ彼がネクタイを雑に扱ってきているところは3年間見てきた。こんなもんかと納得し、また笑った