第68章 ちゃんと考えてるよ
そろそろ帰るかと立ち上がると、同じタイミングで彼も立ち上がる
「送ってくよ」
『いいよ。遅くないし』
「オレが送っていきたいんだ」
『…じゃあ、よろしく』
「今年は喉大丈夫なのかい」
『夜じゃないし大丈夫』
「それは良かった」
色の違うマフラーをお互い自分の首に巻き、外に出ると綺麗な夕焼けが見える
歩き始めがそこに会話はない。何を考えているんだろうと彼の思考を探っていると、彼から話しかけてきた
「こうやって一緒に帰れるのも、あと僅かだね」
『…どうしたの急に』
「言葉のとおりだよ。寂しくなるなと思っただけだ」
『そうね』
言われれば彼と帰れるのもほとんどないんだろう
自分の中のささやかな楽しみが1つ減ってしまうが彼は京都に行く
これは今さら変えようもないしどうしようもない
それにこれが楽しみだとわざわざ征十郎に伝えるつもりもない
違和感がある右手でカバンを肩にかけ直した
「心配になるね」
『家くらい1人で帰れるわ』
「本当に?」
『…遅いときはテツヤに送ってもらうよ』
そこまでしてもらう必要はない気がするがまあ本当に遅いときは送ってもらうことにする
そもそも征十郎が過保護すぎた気がしなくもないが、3年間拒否しなかったあたしもあたしだと思う
というか拒否しても受け入れてもらえなかったので、諦めてしまったというのが正しい気がした