第68章 ちゃんと考えてるよ
『今年も美味しいよ。お店開いたほうがいいんじゃない?』
「この会話去年もしたね」
『アップルパイも美味しかったけどねえ…征十郎はなんでも上手だからなぁ』
「時間があれば作るよ」
『いいよ、大変でしょ』
「大変じゃないと言ったら嘘になるが、苦ではなかったよ」
『ふーん?まあ率なくこなすもんね』
「作ってる間、ずっと名前のこと考えてたからね」
自分の持つフォークの動きが止まる
反応してはいけないのに反応してしまったと、焦ったが今の状況は何もおかしくない
バウムクーヘンだけを視界に入れ、彼の方を見ないように気をつけながら口を開く
『あたしも作るとき、バスケ部のこと考えてたよ』
「桃井と一緒に作ったんだったかな」
『うん。溶かすだけでも一苦労でさ』
征十郎のことで涙を流したこともあったが彼とてバスケ部の一員だ。嘘は言っていない
あの時のことは忘れるべきだと思いながら切ったバウムクーヘンをまた一口入れる
もう心は揺らいでない。一緒に出された紅茶を口に流し込む
「来年も名前からもらえるといいんだけどね」
『京都とか秋田まで持ってくのは辛いなー』
「取りに来ればいいのかい?」
『わざわざ来なくていいって』
雑談を交わしながら食べていけばお皿の上は綺麗になくなる
隣の椅子の上から何かを取り出し前に置く。綺麗にラッピングされたバウムクーヘンだった
「まだ作ったのがあるからよかったら持って帰ってくれ」
『え、ありがとう…カヌレもらったのにいいの?』
「構わない。桃井にあげて苗字にあげないのはおかしいだろう」
『そう?』
「それとこれは父からだ。受け取ってくれ」
『ひっ、お高いチョコ…』
その次に出てきた高いチョコに思わずびっくりするが、押しの強い征十郎のお父さんだ
断っても家まで持ってくるか送りつけてくる気がするのでありがたく頂戴することにした