第68章 ちゃんと考えてるよ
教室がチョコの匂いにまみれて早1ヶ月、今年もホワイトデーがやってきた
もう卒業式の予行練習くらいしかないあたし達3年生はカバンが軽い
あの日大量にもらっていた彼らはお返しをどうするんだろうと疑問に思いながら校門を潜ると、女の子の群れが出来ていることに気がつく
中心にいる黄色い髪に嫌な予感がして逃げようとしたが、忠犬である彼が見逃すことはなかった
「あ!名前っち!おはよ!」
『涼太何やってんの…行商?』
「バレンタインのお返し渡してるっス!名前っちにも!」
『ありがとう。待ち構えてたの?』
「もう誰からもらったか分からないからみんなに配ってるっス
でも名前っちだけ特別だから!ね!」
『さつきは?』
「桃っちも!でも名前っちと違うのにしたんで」
他の人と違いわざわざ紙袋に入っているソレを受け取り、何かと思い開けるとラッピングされたマドレーヌが入っている
ピンクや緑などいろんな色が入っていて、それぞれが何の味だろうと楽しみにしながら紙袋をほとんど中身が入っていないカバンに入れた
『ありがとう。家で食べるね』
「来年もバレンタインちょーだい!オレ誠凛まで取り行くっス!」
『来なくていい』
肩を掴み「なんでなんで」と揺さぶる彼に困っていると、女の子が1人寄ってくる
それに気がついた涼太は揺らすのをやめ、彼女に耳を傾けてくれたのでその隙に肩の手を離してもらう
「黄瀬君!もしかしてお返し…あったりする?」
「いっスよ!1個持ってって!」
「わー!黄瀬君からのお返し!嬉しい」
『…ご苦労さま』
あれじゃ渡してない人も貰えるんじゃないかと思いながらその場を去り昇降口へと向かう
自分の上履きを取り履き替えているところ大きな影ができ、どの背がでかい人だと振り返るとカバンの中と腕のお菓子を抱える紫原が立っていた