第66章 本当は
世間の恋人たちはどんな形式を経て付き合っているのか、他人に口にするだけでも恥ずかしいのにと頬が熱くなる
「私、赤司君も名前ちゃんのこと好きだと思うよ」
何となく察している。いくら一番付き合いが長いとは言え他の女の子とあたしへの態度が明らかに違う
そもそも好きな人じゃなきゃキスなんてしないだろう
その時も、クイズ研のスタンプラリーに誘ってくれた時も、一緒に生徒会に入っていると分かったときも、同じクラスだった時も、帝光に誘ってくれた時も内心嬉しかったのは覚えている
「告白しないの?」
『しないよ』
「なんで?両思いなのに?
『…もう十分、幸せだから』
「もし、赤司君が告白してきたら?」
『断るよ。征十郎もそれをわかってるんじゃないかな』
チョコレートは元の形がどんなだったか分からないほど溶けていく
自分の心もこんな感じに形を、感情を忘れてしまえればいいのにとボウルの中のチョコを見つめるが、認めてしまった感情は心を支配していく
「赤司君、春から京都行っちゃうんだよ?いいの?」
『…いいんだよ』
全然良くない。でも、これ以上幸せになるのが怖い
キセキの世代がバラバラにならず、しかも今年はみんな同じクラスで修学旅行まで同じ班になり、卒業まであと1ヶ月までやってきた
自分のわがままで監督をやらせてもらい、これ以上幸せを望むことはないかなと理性的な自分は考える
だがそんな部分を気にしなくていいのなら、彼に彼女は作ってほしくない
「ごめん名前ちゃん、泣かないで」
『ううんごめん、本音話してたら涙出てきちゃった』
チョコに涙が入らないようその場にしゃがみこむとさつきが駆け寄ってくる
『…ずっと、好きだったんだ』
いつからなんて分からない。本当に弟のようだと思っていたはずなのに、どうしてこんなに膨れ上がってしまったのだろうか
言い聞かせていたんだ。この想いが溢れ出てこないように
そんな想いと一緒に涙も溢れてくる。泣くつもりなんてなかったのにいつからこんなに弱くなってしまったんだろうと指で涙を拭う
その違和感があり消えかかっている手を、さつきに見られないよう袖の中にしまった