第8章 夏祭り
『怒られないなら泊まっていけば?』
「…だが」
『雪さんから征十郎のお父さんに電話したらダメ?怒られる?』
「いや、怒られはしないと思うが…」
『じゃあいいじゃん、泊まってきなよ』
いつまでも洗面所で話しているのも変だと、リビングに戻ろうとすると雪さんが誰かと電話しているらしく廊下まで声が聞こえてくる
リビングに入ったところでちょうど電話が終わったらしく、受話器を持ったままこちらを向く
「ああ征十郎君!今お父さんに連絡して泊まるって言っといたから!」
『本人の意思確認しないで連絡したんですか』
「明日部活でしょ?制服と部活に必要なものも持って来てくれるって、取り行っても良かったんだけどね」
「ありがとうございます」
『渋ってたのに征十郎も受け入れるんかい』
どちらにしろ泊まる流れになっていたので結果としては問題ないかと後ろをついてきていた彼を見る
いつの間に持って来ていたのか征十郎が先ほどまで着ていたはずの浴衣が綺麗に畳まれ彼の手に乗っていた
「浴衣、クリーニングして返します」
「いいからいいから、気にしないで。名前ちゃんもお風呂入ってきたら?」
『え』
「明日から部活でしょ?ちゃんと寝なさい」
『…』
再び征十郎のに視線を戻すが、彼はあたしが居なくなることを気にしていないようだった
雪さんと一緒にいる時間だけならあたしの方が長いが、出会った時期は征十郎の方が早い。気にかけるほどでもないかと彼へ向けた視線を雪さんに戻す
『じゃあ入ってきます』
「ゆっくり入っておいで~」
征十郎と雪さんに見送られリビングを後にする。不思議な状況になってしまったと思いながら自分の部屋に行き着替えを持って脱衣所に向かった
意外と疲れていたらしく、浴槽に浸かると勝手に声が出る
今頃リビングで2人は何を話しているんだろうと考えながら目を瞑った