第8章 夏祭り
浴衣を脱いでどうでもいいような服に着替え、ご飯を食べる雪さんの前でベビーカステラを食べていると意外と早く征十郎が戻ってくる
ドライヤーをかけていないのか髪が濡れたまま彼を見て、なんだか雰囲気が違うなと思いながら立ち上がった
『髪乾かして来なよ、風邪ひくよ』
「征十郎君にドライヤーの場所教えてあげないと」
『ああ、そうか。こっち』
黙ったままの彼を連れ出し、ドライヤーを差し出すが変わらず動こうとしない
こんな子供みたいな彼を見るのは珍しいと、髪から水滴が落ちるのを見てフェイスタオルを出し征十郎の頭にかけわしゃわしゃと水気を取る
『どうしたの、疲れちゃった?』
「そんなことはないんだが」
『もう泊まってけば?』
「…迷惑になるだろう」
『いや雪さんならむしろ喜びそうだけど』
いつもより弱気な彼が動こうとしないので仕方なくドライヤーを取り返し髪を乾かし始める
これが紫原だったら身長差的に出来なかっただろうな、なんてどうでもいいことを考えながらされるがままの彼の髪を乾かし終えた
「ありがとう」
『気にしなくていいよ。自分の髪に比べれば全然短いし』
「名前の髪は長いからね」
『そうね』
ドライヤーを仕舞い、少し様子がおかしい彼を見る
一体なにが征十郎の中で引っかかっているんだろうかと、このまま1人帰すのもなんだかモヤモヤする気がした