第8章 夏祭り
行きに比べて荷物が多く足が痛い。そしてもう一つ相違点、彼に手首を掴まれているわけではなく手を繋いで歩く
すっかり暗くなっており、街灯だけが道を照らす
先ほどの明るかった空間が嘘みたいに静かで、他愛ない話だが彼の声が良く聞こえてきた
そんな話をしていると段々見慣れた道が見える
もうあと10分くらい歩けば家に着くかなと考えていると、街灯の少し先で誰かが手を振っていた
「雪さんだ」
『なんで!?』
腕を振りながら小走りで駆けてくる雪さんが誰かの姿と重なる
抱き着いてきたらさつきのようだと夏祭り会場で出会った彼女のことを思い出しながら、目の前で止まった彼女を見つめた
「帰ってくるって言うから迎えに来ちゃった」
『カギかけてきましたか?』
「もちろん!…待って、何で征十郎君と手繋いでるの?!」
「名前が迷子になるので」
『なってない』
「えー…カメラ持ってくればよかった…」
『撮らないでいいです』
小走りで来た雪さんは息が切れている
あまり運動するイメージがないので心配していると、横に雪さんが並び征十郎と彼女の間に挟まれた
「征十郎君いつもありがとうね」
「いえ」
『ちょっと、迷子になってないってば』
否定しながら征十郎の手を離し、持っていた屋台で購入した食べ物を袋ごと雪さんに渡した
目をぱちぱちまばたきさせる彼女がなかなか受け取らないので困りながら歩いていると、渡されていることに気が付いたのかようやく袋を受け取る