第8章 夏祭り
そのまま屋台を回りもう見るものもないかなと考えていると、征十郎も同じことを考えていたらしく「帰ろうか」と切り出してくれた
だが帰る前に1つしたいことを思い出す
『雪さんにお土産買ってきたい』
「ベビーカステラはお土産じゃなかったのか」
『夕飯になりそうなものないじゃん?もう食べてる時間かな』
「食べていたら明日食べてもらえばいいさ」
『征十郎のお父さんは?いいの?』
「…ああ、大丈夫だよ」
握られている征十郎の手に少し力が入る。トーンが少し下がった彼の声を聴いて、一応聞いたが踏み込むべき話題じゃなかったかと後悔した
きっと彼は家に帰れば勉強しろなどお父さんから言われるのだろうと考え、自分で振った話題から変えることにする
『りんご飴買ってもいい?』
「また食べるのかい」
『別にいいでしょ』
別に自分で食べるわけではない。小さい方のりんご飴を1つ買う
先ほど自分が食べていたものより1回りか2回りほど小さく赤く輝くそれを綺麗だと見つめてから、同じ赤色の彼に渡す
『はい』
「オレにかい?」
『ううん。征十郎のお母さんに』
「…そうか」
彼の頬が緩み、表情が柔らかくなる。征十郎のお母さんがりんご飴を好きだったのかは分からないが、よほどぼ暑さじゃなければ常温で置いておいても問題ないだろうし、ちょうどいいだろう
そんな彼女と過ごしたわずかな記憶を思い出しながら、征十郎がりんご飴を袋に仕舞う様子を眺め、再び手が繋がった
「それじゃあ雪さんへのお土産見ながら帰ろうか」
『焼きそばとかでいいよ』
どうでもいいような会話をしながら無事に屋台でお土産、と言うより食べ物を購入できたので念のため雪さんに「今から帰ります」とだけメールを送り、帰路を歩いた