第60章 訪問と進路
「オレ、苗字が卒業式で言ってたことがまだ分かんねぇよ」
『卒業式…?』
「この世界の人とは付き合えないってやつ」
『そんなこと言いましたっけ』
「苗字記憶力悪いな」
『いや、良い方ですけど』
「あの言葉がすっげー引っ掛かってよ、しかも消えるとか言うし」
『テツヤみたいにってわけじゃないですよ』
「ミスディレクションか、そんなことあんな状況で言うほどお前は馬鹿じゃねーだろ」
『今軽く馬鹿にしましたよね』
「…さぁな」
『誤魔化さないで下さいよ』
「お前こそ誤魔化してんじゃねぇよ」
『っ、』
お互い黙ったことにより部屋に響くのは時計の音だけ
こちらを真剣に見ている虹村先輩の目が気になって、ふいに目を逸らす
黙ったまま時間がどれくらい経ったか、虹村先輩がしびれを切らし溜め息を吐いてこちらへ向き直しようやく緊張感から解放された気がした
「…さっきのこと、赤司とかは知ってんのかよ」
『恐らく知りませんよ。そもそも話してないんですから』
「橙崎先生とかは?」
『言ってないです』
「じゃあなんでオレに話したんだよ」
『…なんででしょうね』
「はぁ!?」
『何となく、なんだと思います』
多分あたしにとって数少ない頼れる人だったんだろう
だから話したんだろうなと分かっているが彼にはそれは伝えない
虹村先輩はあたしだけに大事なものを守らせるのではなく、一緒に守ってくれる人だ
アメリカから戻ってきてくれるかは分からないが、いつかまた一緒にキセキ達を支えてほしいと考える