第58章 守る人と守られる人
「名前っちのその話、赤司っちとかは知ってるんスか?」
『征十郎は付き合い長いしさすがに知ってるよ。あとは虹村先輩あたりじゃないかな』
「少ないんスね」
『そりゃ身の上話なんてわざわざしないよ』
「…名前っち」
『ん?』
「オレ、名前っちのこと本気で好きっスよ」
ぎゅっと、まるであたしの存在を確めてくるようにさらに腕に力入れて抱き締めてくる彼の背中に腕を回すことは出来なかった
分かっていた。今までだってのらりくらりとかわしてきたが、彼はデートしたいとか手繋ぎたいとか真っすぐあたしを見てくれている
ほんのりする涼太の柔軟剤か香水の香りに、ふと違う誰かを思い出した
「でも名前っちは違うんでしょ?」
『…そうね』
「赤司っちとは付き合わないんスか?それとも主将とか…」
『主将?虹村先輩?』
「告白されてたじゃないスか」
『あたしは誰とも付き合わないよ』
その瞬間、勢いよく肩を掴まれ彼から離される
変なことを言っただろうかと涼太の顔を見ると、UFOでも見たのかというくらい驚いた表情をしていた
「なんで!?」
『えー…幸せだから?』
「付き合ったらもっと幸せがあるかもしれないんスよ!?」
『はは、もう十分幸せなんだって』
つい先日の全中閉会式の事を思い出す。これまでやってきたことが報われた瞬間だった
この先忘れられないだろうななんて考えていると、彼の左手が伸びてくる
髪を耳にかけそのまま先ほど付けたばかりのピアスに触れた
「名前っち、ピアスの場所には他にも意味があるんスよ」
『え』
「左耳が守る人で、右耳が守られる人っス」
『…それはつまり?』
「オレが守る人で、名前っちが守られる人ってことっスよ」
『…あたし守られるのか』
「オレは名前っちを守る人で十分っス!」
ニッコリ笑った彼の表情は明るい。申し訳ないと思う気持ちが少しばかりあるが、だからと言って同情で付き合うのも違うと思う
少し高い彼の頭を優しく撫で、笑い返した