第58章 守る人と守られる人
「拾ってくれたって…名前っちが?」
『前あたしの家に勉強会来たときに表札見なかった?』
「…見なかったっス」
『見ときなよ。偽物の家だったらどうするの』
友達の家だと思って行ったら違って監禁される
そんなゲームみたいな話だがあり得なくはないことを考えていると、変わらず彼は驚いた表情でこちらを見ている
「つまり名前っちは本当の両親に…その」
『うん。捨てられたんじゃないかな。本当の両親から虐待されてたらしいし』
「虐待って、あの虐待っスか!?」
『多分だけど、でももう傷跡残ってないよ。海行ったとき気づかなかったでしょ?』
「確かに何も気づかなかったっスけど…それより、多分って…?」
『記憶にないんだ。本当の両親との記憶が』
本当はこっちの世界に来た時には雪さんの病院だったので幼い頃の記憶も、本当の両親をよく分かってない
元の世界の両親はそんなことする人ではないことは知っているので、橙崎に都合よく拾われるためだけにそういうことになっている可能性だってあると、答えが分からないことを考える
目の前にいる涼太を忘れて考え込んでしまった。小さく溜め息を吐き、前髪の隙間から涼太を見るとあたしを泣きそうな目で見ていた
『嫌な記憶が無いと考えれば別に平気だよ。あっても良い記憶なんて無いに等しいだろうし』
「名前っち…」
『あたしは雪さんと雨さん両方に似てないし親子としても年齢差がおかしいから分かる人は分かると思う
でもいいんだよ。これだけ好きにさせてもらってるし、今幸せだよ』
心の底から間違いなく幸せだと笑って涼太に言うと、むしろ彼が泣きそうな顔であたしをギュッと抱き締めてきた
その行動にあたしも泣きそうになったのか鼻の奥がツンとする
いつもみたいに彼を拒否する気は起きない