第56章 全中前に夏祭りを
こんなふざけたことするのは1人しかいないし当てさせる気しかないのか声も変えていない
手首をぐっと掴み、首元まで下ろした
『わんわん』
「犬じゃないって何回言えば…オレ1日会えなかっただけで寂しかったんス!」
『ちょっと抱き着かないで浴衣が崩れる』
「それでもいいっス!」
『やめてマジ』
涼太に後ろから抱きつかれ格闘していると、溜め息を吐きながら前から人が歩いてくる。お母さんポジション緑間だった
今日も子育て疲れるよねと笑っていると、彼の右手にはラッキーアイテム候補を集めるのか大きめの袋が握られている
「お前たちは何をやっているのだよ」
「いつものことだろ?」
『頼むから日常化させないで』
「名前っちひどいっス!オレの中では日課なんスよー」
『注目浴びるから本当にやめて離して』
ぐっと涼太の顔を押して離れようとするがここで男女の力の差と腕の長さで負けているためなかなか離れようとしない
学校ならば屈んで逃げるのだが外かつ浴衣なのでなるべく派手な動きはしたくないと格闘する。この動きが既に派手な気がするが
周りに助けようとしてくれる人はいないらしいと困っていると、去年よく助けてくれた救世主が現れる
「お待たせ~」
「すみません。最後ですか?」
「テツ君!ムッ君!大丈夫全然待ってないよ!」
「良かったです…あの、名前さんは何を」
「いつものことでしょ~」
『だから日常化させないでって…』
涼太との戦いを凝視してから大体のことは悟ったのか苦笑いを浮かべていた彼らも助けてくれる様子はないらしい
ならば仕方ないとほんの僅かな罪悪感を感じながら涼太の足を下駄で踏む
もちろん彼も下駄のため裸足、多分それなりに効果はあると思う
「痛い痛い痛い!痛いっス!踏まないで!」
『離してくれるなら考える』
「ご、ごめんっス!」
『少しは人目を気にしてモデルでしょ?』
「…はいっス」
「それじゃあ全員揃ったことだし、行こうか」
去年みたいなことに巻き込まれないといいなと考えながらみんなで屋台が出ている方へと歩き出す
普段と違うみんなの姿を見てなんだか勝手に心が弾み口角が上がってしまう
だが中身は普段と変わらない。いつも通りあれが食べたいあれがやりたい騒ぐ彼らにもっと笑ってしまった