第56章 全中前に夏祭りを
浴衣に着替え終わって準備していたところ玄関のチャイムが鳴る
扉を開けると、去年と同じ龍の柄の浴衣を着た征十郎が立っていた
『…迎えに来てくれたの?』
「帯が結べていないかと思ってね」
『今年は1人で結べました』
「それなら良かったよ」
『ちょっと待って、今準備終わらせる。上がって待ってて』
相変わらず白が似合うなと思いながら彼を招き入れリビングで待つよう指示し、巾着に荷物を詰め、姿見の前で最終チェックをする
1人で準備したのでなんだか不安になってきてしまい、待っている彼に声を掛け確認してもらうことにした
『帯不安になってきた。着崩れたりしてない?』
「問題ないと思う。最悪崩れてしまっても直せるよ」
『助かります』
頼りになる弟のような存在に頭を下げると「行こうか」と言われたので玄関に行き下駄を履く
家の鍵を閉め、完全に閉まったことを確認し家に背を向けて歩き出した
『もう夏休みかー早いなぁ』
「あっという間に冬休みが来るんだろうね」
『冬休みは受験で忙しいだろうから、夏休みたくさん遊びたいよね』
「そうだね」
『まあほとんどは部活で終わるだろうけどね』
「監督である名前が言えば休みにもできると思うが?」
『休み増やしたらコーチに怒られるわ』
「全中が終われば一応受験に専念することになるが、名前は高校決めたかい?」
『…自分から振っといてなんだけど受験の話はやめてよ』
「名前の実力ならば高校など選び放題だと思うが」
『いやそういう問題じゃないの!そんなこと忘れて遊びたいの!』
いくら成績が良くても勉強が出来ても受験という単語、なんなら試験も嫌だ
叶うならこのまま中学生という義務教育で止まっていたいと思う。絶対叶わないけれども
雪さんは好きにしていいと言われているが、1学期の三社面談で担任はまだ決まらないのかと焦らせるようなことを言ってくる
いっそもうあみだくじとかダーツで決めてしまおうかと冗談で考えていると、周りに浴衣を着た人が増えてきたことに気がついた