第41章 治癒の眼
「とりあえず前のめりになるのはやめておくといい」
『ん』
「あと、横になっておくといいよ」
『…横?』
「ああ」
そうやって彼はあたしの頭を掴み寝かせる。つまり征十郎のももの上にあたしの頭があるという膝枕的な体制だ
『…あたし後ろの席行こうと思ったんだけど』
「後ろだと余計に酔いやすい。前の方がいいだろう」
『だからってこの体制は嫌だ』
「仕方ないだろう」
『…分かったよ』
眼を閉じて酔いがなくなるようにと考え事をする。しばらくすると征十郎があたしの頭を撫で始めた
『くすぐったい』
「名前の眼の能力は進化しても、自分のことはわからないのかい?」
『くすぐったいの無視?うん、まあそうっぽいよ? 』
「それは不便だね」
『でも、他の人の役に立てると考えれば悪くもないよ』
あたしがそう言うと征十郎は頭を撫でるのをピタリと止めた
何かあったのかと疑問に思って首をひねらせ彼を見ると、びっくりした顔でこちらを見ている征十郎と目が合った
『…どうした?』
「いや、何でもない」
『何それ、気になるヤツじゃん』
「気にするな」
『普通気にするでしょ』
笑って見せると征十郎はフッと笑い返してきた。なんだか話をしていて気が紛れて来たのか、車酔いがマシになってきた気がする
起きようとするが、頭に彼の手を置かれているので上体を起こせず困ってしまう
『征十郎、酔いが治ったんで…そろそろ起きたいんですけど』
「もう少しこのままで居させてくれ」
『なんでじゃ』
それに回答されないまま結局解放されたのはバスが帝光中に着いてからで、前の方だったことが幸いし特に誰にもツッコまれることはなかった
なんならみんな気が付いていないでほしいと願うばかりである