第38章 マネージャー辞めます
「…テツに苗字か、練習はどうしたんだよ」
「…赤司君に許可をもらって抜けてきました。青峰君、練習に戻りましょう」
「なんでだよ?」
「…!」
「なんのために練習すんだよ?試合に出れば嫌でも勝っちまうのに?
お前が言うように全力でやって、戦意も失せた相手をこれまで以上に叩き潰せるようになりゃいいのか?」
「気持ちはわかります。けど…」
「…わかる?はっ…何がわかるんだよ。教えてくれよ
お前みてーに1人じゃなんもできない奴に何がわかるんだよ!
いっそオレもテツみてーに生まれたかったわ、その方がハリが出るぜ」
テツヤが目を見開かれる。彼の背中にそっと手を添えて、あたしはテツヤの味方だと、一緒に連れて帰ろうという思いを込めた
「ボクだって…青峰君やみんなを羨ましいと思う時はある
できることならダンクだってやってみたいし、3P決めたり、ドリブルで相手をかわしてみたい
けど、できないことを嘆いても仕方がない。だからボクは全力で、パスを回すために…」
「…誰に回すんだよ、そのパスは。黄瀬か?緑間か?紫原か?それとも、オレだとしたら何のために?
お前のパスがなくてももう、オレは1人でどんな奴にも勝てちまうのに?」
『大輝、それ以上は』
「あん時からお前のパスはもらってねぇ…ついこの間なのに…もうずいぶん昔のことみてーだ
オレは…もうお前のパスを、どうやってとればいいのかも忘れちまった」
パンッと乾いた音が響き、目に光のない大輝の顔が横を向く。叩いた自分の右手がじんじんと痛む
前の階段であたしを平手打ちした女もこんな風に痛かったんだろうかと、嫌な記憶が一緒によみがえった
『最低…!』
やはり連れてくるべきじゃなかったと後悔した。そして帝光を出てきたことが間違いだったとテツヤと大輝を置いて走り出す
雨で足元が滑るが、この後の事態を考えると転んでも、車にはねられてでも急いで帝光に戻らなければいけなかった