第36章 こんな時に体育祭?
「あ?苗字じゃねーか」
『…灰崎、久しぶり』
「虹村サンの告白聞いたけどよー…」
『マイク通せばそりゃなー…でもそれ禁句ね』
「…お前のこと奪えばアイツらも虹村サンも、どんな表情すんかなぁ」
舌なめずりは彼の癖なんだろう。後ずさりをするが、半年前までバスケ部だった彼の方が動きは速いそのまま近づいてきて顎を掴まれる
近づいてくる彼が何をしたいのかを理解し、決意を固めた
『ふんっ!』
「っだ!」
彼に掴まれている顎を支点に頭突きをかます。灰崎の鼻とあたしのおでこが激突し、顎が自由になった
「何すんだ痛ぇだろ!」
『こっちの台詞だわ、何するつもりだ』
痛みがあるおでこを擦りながら灰崎を見ると鼻から血が垂れている
それは申し訳ないと思うがそもそも事の発端は彼だから謝るつもりはない
『奪うも何も、誰のものでもないよ』
「…あ?」
『それに、誰のものにもなるつもりはない。灰崎が前言った殴りたいとかなら殴ればいいと思うけど…』
でも結局彼は何もしてこなかった
彼がどんな心情で女の相手したりぶん殴っているのかは知らないし、殴られるくらいなら別に傷物になるだけだからいいが女として相手になるつもりは全くない
『殴る前に、話すことも出来るんじゃないの?』
ふと我に返り、説教みたいなことを言ってしまったと反省する。目の前にいる灰崎の表情はいつもより幼い気がした
『…じゃ、戻るわ』
灰崎に向かって手を挙げ、来た時と比べ落ち着いた心臓と冷静になった脳で考えながらグラウンドに向かって歩く
スピーカーからは午前中の得点を発表している。やはり征十郎のいる組が暫定1位だった
その放送に紛れ灰崎がなにか言った気がして振り返るが、何も様子は変わらない
気のせいだと考えたあたしはそのまま来た道を戻る
『出来るなら、アイツも残したかったけどな』
そう考えてももう遅い。だから今度は遅くならないように、後悔しないようにとこれからを考えながらお昼休みに入ったグラウンドに戻った