第32章 巻き込まれた夏祭り
「…いえ、返してもらいます」
「んあ?」
「大丈夫ですか、桃井さん」
ぬいぐるみを男たちから奪い返し、囲われたさつきの腕を取りテツヤがこちらに走り始める
『さつき!テツヤと一緒にこっちに走ってきて!逃げるよ!』
「テツ君!名前ちゃん!」
テツヤとさつきの少し前を走り、誘導していく
後ろではスーパーボールを投げて戦ったりと色々あるようだが、残念ながらあたしは振り向いて見ている余裕はない
『あ!』
「名前さん!」
だが、ここで慣れない下駄が脱げて飛んでいってしまったのと同時に自分が前へと倒れていく
ここで転ぶわけには行かないのにどうしようと倒れていく体をとりあえず前回り受け身するかと体制をとると、急に人が現れる
「黒子っち~!いないんス、おっと!…あれ、名前っち?」
『涼太!ナイス!』
「黒ちーん?」
「黄瀬君!紫原君!」
「あ、黒子っち!……はぁ!?」
「うわぁ、変なの来たー」
「紫原君!パスです!」
お面をつけ集団に追いかけられていることに驚く涼太に支えられ、何とか体制を整える
テツヤが紫原にくまのぬいぐるみを投げ渡し、それを紫原は受け取ると涼太へと渡した
「は?なんで?」
「逃げて下さい!」
「はぁ!?」
「きーちゃん、ムッ君と名前ちゃんと一緒に逃げて!」
「名前っち、走れるっスか?」
『走れるけど…下駄が』
「紫原っち、名前っちの下駄拾って!
あと名前っちはこのぬいぐるみ持ってて!それじゃ、失礼するっスよ!」
『!』
そのまま横抱きにされ涼太は走り始める
下駄履く時間を勿体ないと考えたのだろう、あたしも逆の立場だったら抱えるか何かして運んでいただろうと考えながら渡されたぬいぐるみを抱きしめた
「え~走るのー?」
「名前っち!しっかり捕まってないと落ちるっスよ!」
『え!?うん!よろしく!』
涼太の首に両腕を回す。今回の起因であるぬいぐるみはあたしの胸元にあるため転んだりしなければ落ちることはないだろう