第32章 巻き込まれた夏祭り
『ありがとう助かったよ』
「よく似合ってるよ」
『征十郎もね』
「行こうか、混み始めてしまう」
『うん』
用意していた巾着を持ち外へ出る
カランコロンと下駄が鳴るのに気分が高まるのを感じつつも、普段履き慣れていない下駄のため、気を抜いたら去年同様すっぽ抜けそうなことに頭を悩ませた
そんなことを考えていたのがいけないのか、それとも事故なのかはわからない。ゆっくり前へと倒れていくのを感じ目を瞑る
「おっと」
『ふぅ、ありがと征十郎』
「名前はよく転ぶね」
『服が着慣れてないし、下駄も慣れてないからね』
「そう言われれば、帝光祭のときにも転びかけていたね」
『その時にも征十郎に助けてもらったね』
「じゃあ、今回も同じように助けようか」
スッとあたしを支えている腕を直して、征十郎はあたしの手を取り歩き出す
同じように助けるって転ばないように手をつなぐって意味なんだと思いながら、歩きやすくなったのがよく分かる
『…ありがと』
「礼には及ばないよ」
征十郎の手の温もりがこちらにまで伝わってくる
最近他人と手をつなぐ機会が多いななんて考えながら彼と話をしていると、後ろから声がかかった
「赤ちーん、名前ちーん」
『紫原、甚平なんだ。似合ってるよ』
「…何で手繋いで歩いてんの~?」
「名前がよく転ぶからね」
『おっしゃる通りです』
「ふ~ん」
紫原はそのことに興味がないように見えたのだが、まさかの征十郎と繋いでる手とは逆の手を取って並んで歩き出す
『…どゆこと?』
「オレだけ仲間外れとか許さねぇしー」
「じゃあオレと手を繋ぐかい?」
「赤ちんが冗談言うなんて珍しー…」
『本当、熱でもあるのかね』
「失礼だね。ちゃんと健康だよ」
それを聞いた紫原は「いつもの赤ちんだ~」と呟いて繋いでいる手と反対の手に持っていたまいう棒を食べ始める
対して征十郎は「いつものとは何だ」と口元を押さえて笑っていた