第26章 合宿
『…近いよ』
「気にしなくていいよ」
『そう言われても気になるじゃん』
「大丈夫だよ」
『なら離してよ』
「それは無理なお願いかな」
『え』
「悪い虫がくっつかないか、心配だからね」
顔を見られたくなくて俯かせると当たり前だが彼の表情が見えなくなる
「…真っ赤だね」
『そ、そりゃそうでしょ!?せめて何か言ってからにしてよ!』
「…言ったら良いのかい?」
『よ、良くない』
「矛盾してるよ」
そう呟いて征十郎はあたしを抱き締める腕に力を入れて、強く抱き締めているが大切なものを抱いているように抱き締めてきた
ふと身長の差が開いていることに気付いてこんなタイミングで、いやこんなタイミングだからなのか彼も成長期なんだなと実感する
『…征十郎、今身長いくつ?』
「165前後ではないかな名前は今いくつだい?」
『160いかないくらい?昔はあたしの方が高かったのにね』
何かムカつくなぁとぽつり呟くと、征十郎はクスクスと笑ってさらに抱き締める腕に力を込める
痛くはないが、いつまで抱き締められてれば良いんだろうと考えながら、早くなる動悸をなんとか抑えた
『…どしたの?征十郎』
「力を入れ過ぎると名前が壊れてしまいそうでね。消えそうな気がして仕方ないんだ」
『…消える、わけないよ』
「その通りだね。深く考え過ぎていたようだ」
征十郎の言うことがどこか心の中で引っ掛かって、目を合わせることが不安になった
なんとなくだけど、征十郎の言っていることが本当になりそうで怖い
『…いい加減離してもらっても良い?』
「ああ、悪かったね」
『じゃ、あたし部屋に戻るから。虹村先輩に会ったら用件は済んだって言っといて』
「わかった。伝えておく」
『それじゃおやすみ、征十郎』
「おやすみ名前」
早くなる動機、熱が収まらない体
誤魔化すように部屋まで走って戻るとさつきが髪を乾かし終わったところのようだった
ドライヤーを持ったまま桃色の瞳がこちらを向いている