第3章 帝光に行かないか?
それから1年しないうちに、彼の母親であった詩織さんが病によって急死してしまった
征十郎はそんな母親の遺影をただただ見つめており、あたしはその横で彼のことを見つめている
あたしだって数年間だが彼女にお世話になったのだ。それはとても寂しい
でも征十郎はもっと寂しいから、あたしが涙を流すのは違うと思い、涙を流すことを我慢していた
けど彼は泣かなかった。しっかりと父親の手伝いをしており、周りに同世代がいないあたしは彼の隣に来てしまう
「名前、今日はありがとう」
『ううん、あたしもお世話になってたし』
「そうだね、母さんも喜んでたと思うよ」
辛いはずなのに後片付けをする彼の口数はいつもより明らかに少なく、彼の無理している姿を見て少し目頭が熱くなってしまう
『征十郎、泣きたい時は泣いていいんだよ』
「名前」
『無理しなくていいんだよ』
綺麗な赤い瞳が揺らぎ、頬を涙が伝う。それに釣られてあたしの頬に水が伝う感覚がする
「…名前」
『目擦ったら、赤くなっちゃうよ』
「元々赤いから大丈夫だよ」
『…そーね』
その日、大人に隠れて2人で泣いた
征十郎の弱さを初めて受け止めて、お互いにどこか作っていた最後の壁をこわした
しかしその日を境に征十郎のお父さんは習い事の量などをかなり増やし、学校やクラブ外で会える機会が減ってしまう
彼の運命は変わらないのだろうかと、日に日に大人びていく彼を見て少しだけ思った