第17章 赤色の欠席
『征十郎』
「…」
りんごのすりおろしを持って征十郎の部屋へ入り声を掛けるが、返事がない。どうやら寝ているらしい
仕方無くすりおろしを机の上に置き、征十郎のベッドの脇に座ると彼はかなりの汗をかいていることに気が付く
念のためと持ってきたタオルで拭き取りおでこに手を乗せると、熱さがこちらにも伝わってくる
『冷えピタ買ってくれば良かったなぁ』
でもそんなことを考えても後の祭り。少し足をぶらぶらさせながら首元の汗も拭うと彼の目が開く
「名前…?」
『おはよ、りんごのすりおろし持ってきたけど食べる?』
「…名前の手、冷たいね」
『…征十郎が熱いだけだよ』
おでこ同様熱い手であたしの手を掴み頬を寄せる
動けなくてどうしようかと困っていると、彼は起き上がり「りんごを食べる」と言い始めた
スプーンとすりおろしが乗っている皿を渡すといつもよりゆっくり食べ始める
『時間帯が微妙になっちゃうけど、食べ終わったら風邪薬飲んでね』
「水がほしいな」
『わかった。水持ってくるから、待ってて』
「ありがとう」
征十郎の部屋から再び出て先ほどの調理場の冷蔵庫から水を取り、戻る
曲がり角を曲がったところで出会ったのは昔から知っている男の人だった
「ああ、橙崎の娘じゃないか」
橙崎(とうざき)、それはあたしを引き取ってくれた雪さんと雨さんの、苗字だった