第16章 チョコばらまく日
翌日、訪れたバレンタインデーは特に浮かれた雰囲気も何もなくいつもの様子
なんだこんなもんかと朝練が終わって下駄箱に行くと、小学生の時に比べ大盛り上がりしているのが目に入る
突っ込まれているチョコやら手紙は去年まで見なかった光景、みんなすごいなあと他人事のように思いながらクラスに向かうと、教室の前に人だかりができていた
「チョコ!本命だから!」
「あの…放課後、時間ない?」
「返事待ってます」
代わる代わる去っていく女性にこれは黄色い奴の顔面に騙されている女たちだと察する
モデルも始めたからあわよくばな人もいるんだろうと思いつつ人だかりがない扉から教室に入り荷物を置く
今日の授業の準備が完了したころ、ようやく人だかりが落ち着いたのか涼太が教室へと戻ってきた
「ふう…あ!名前っち!」
『おはよう涼太』
「見てみてオレこーんなチョコもらっちゃったっス!」
『良かったね?』
「名前っちはくれないんスか?」
悪気なく言う彼にもらえて当然だと思っているのかと思わず表情がムッとしてしまう
『あげてもいいけどその態度じゃ渡さないよ』
「えーオレ姉ちゃんにも名前っちのチョコ楽しみにしてるって話したのに!」
『そもそもあたしが作ってなかったらどうするんだ』
しょうがないなと紙袋からラッピングされたマドレーヌを取り出す
たくさんの女子からもらっているんだからいいじゃないかと考えたが彼はそうじゃないらしい
尻尾をぶんぶん振る幻が見える彼の手のひらに、それを置いた
『はい』
「わー!名前っちからのチョコ!」
『ちょっと、声がでかい』
また体育祭の時みたく涼太のファンに殺されてしまうとビクビクしながら周りを見ていると、視界の端にある教室の出入口に赤い髪と女の子がいるのが見える
相手は見たことあるあたり同じ学年の女子だろう。少し会話をした彼はこちらに寄ってきた