第11章 仲間
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あの日から、二か月と少しが経った頃
私は杏寿郎さんと一緒に蝶屋敷へと出向いていた。
「竈門少年…!」
「炭治郎君…」
病室の戸を開けるとそこには、ベッドの上に腰を掛けている炭治郎君がいた。
「煉獄さん!さん!お久しぶりです!」
彼は私たちに気が付くと笑顔で明るく返事をしてくれた。
…しかし、やはりまだ本調子ではないように見える。
炭治郎君と善逸君、猪の頭を被った少年、伊之助君たちは、
私が遊郭での任務から退いてすぐ隊士として花街に向かい、
その後姿を現した上弦の鬼と戦った。
そして、彼らは見事に勝利を収めたのだ。
しかしその代償として、目の前の彼は二か月間意識不明のままであった。
善逸君と伊之助君も重傷を負い、宇随さんは左手と左目を失い柱を引退した。
上弦の鬼とまみえるということは、相応の犠牲も覚悟しなくてはいけない。
杏寿郎さんの言葉に受け応える炭治郎君の笑顔が眩しい。
でも、時折ちらつく顎の傷が痛々しい。
理不尽な暴力を滅するために、どうしてこんなにも優しい子が傷つかねばならないのだろう。
それに私があの時任務から外れることを了解していなければ、少しでも、みんなの負担を減らすことができたのではないかって…
…思ってしまう。
結局どの道を選んでも、後悔をしない未来なんてなかったのかもしれない。
病室にいる間、私はどうしても心の底から笑うことはできなかった。
「…?」
「…え?」
唐突に杏寿郎さんに名前を呼ばれ、我に返った。
隣りに座った杏寿郎さんの方に顔を向けると、彼は怪訝な表情をしていた。
二人が目の前にいても、私は自分の頭の中の思考を整理するのにもっぱら集中力を使ってしまっていて、それまでの会話を全然聞いていなかった。
「庭に出ませんか? 今日は天気もいいし、サツキが見頃だってカナヲが言ってました!」
話を聞いていなかった自分に罪悪感を抱きながらも
何事もなかったようにもう一度言い直してくれた炭治郎君の提案に "もちろん!" と賛成し、私たちは外へ向かった。