第17章 駆られる ※
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大きな扉を童磨が開けると、ぶわぁと秋の生ぬるい風に全身を包まれた。
"君に見せたいものがある" と言われ彼に連れていかれた先は屋敷の中庭だった。
足元には池が作られており、その上を歩けるように細い橋があちらこちらに架けられている。
吹き抜けとなった天井からは満月の光が差し込み、水面は光を反射してキラキラと美しい。
その光の隙間に、桃色の何かが見える。
よく見るとそれは睡蓮の花だった。
夜に咲く品種は珍しい。
「君みたいだと思ってさ。」
前を見つめる童磨を見上げる。
「あの睡蓮、純粋で、無垢で、愛くるしい」
「え?」
私の方に顔を向ける童磨と目が合った。
「夜に咲いて、花が終わると水中に沈んじゃうんだ。」
童磨の言葉に顔が熱くなる。
彼は私の心を知ってか知らずか、私に手をのばし髪を掬い耳にかけ、そのまま腰を抱き寄せた。
「……っ」
返す言葉に迷っていると、視界の闇を淡い、黄色い光が切り裂いた。
「蛍……!」
蛍の季節なんてとうに過ぎているのに、童磨が放ったのだろうか。
辺りを優しく飛び回る黄色の光。それは儚く、私の心の奥をくすぐった。
「前に見た時よりもずっと多いわ!」
前にも、こんなことがあったような気がして彼の腕に手を添えた。
童磨は"そうだね"と、蛍よりも遠いところを見つめたまま
優しい声でそう言った。