第10章 情景
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誰かの…声が聞こえる…
誰だったか、私の大好きな声…
体に優しく響いて心地よい
(このまま眠っていたい…)
…………………ん?
妙に現実的な感覚。
それまでぼんやりと、音として聞こえていた声が徐々にはっきりしたものになっていく。
(…この声は……杏寿郎さんっ…!
なんでこんな近くで…っ)
「………へっ?」
「む!起きたか!」
(え?…え?どうして杏寿郎さん?
なんでわたし、…え?)
目覚めた私は ばっと身を起こしたのだが、
なぜか杏寿郎さんの膝の上に乗っていて
彼に抱き着くような体制になっていた。
というか…、というか、
(顔が近い……!!)
「――――――――――っ!」
「どうした!寝ぼけて「ごめんなさい!私ったら…」
あまりの恥ずかしさと申し訳なさで、杏寿郎さんの膝から飛び降り距離をとる。
なんと宇随さんまでいた。
「―――…。私っ…」
なんて破廉恥なことをしていたんだろう。
自分の不甲斐なさがショックで両手で顔を覆う。
「…まぁ、この調子じゃ確かにきついよな。
わかったぜ煉獄、連れて帰れ。」
「感謝する、宇随。」
「もご苦労だったな。この任務は今晩で終いだ。」
「…どういうことです?鬼は倒せたの…?」
突然のことに驚き、宇随さんと杏寿郎さんを交互に見て尋ねる。
「いや、まだだ。これだけ俺らが嗅ぎまわってんのに一向に尻尾をつかめないのはおかしい。
もしかしたら今回ここにいるのは上弦かもしれねぇ。」
「……。」
「鬼の情報収集は引き続き俺と嫁たちがやるから、は気にすんな。」
「そんな…。」
納得いかない…。
「こんな中途半端で切り上げるなんて、嫌です…。
私、まだ全然役に立ててない…。」
「…」
杏寿郎さんの眉毛も下がる。