第10章 情景
(杏寿郎side)
「むぅ…。」
ここは花街のはずれ、
稲荷神社の境内の裏の石垣に を抱えたまま腰を掛ける。
腕の中のを見つめる。
眠ってしまったようだ。
しかし苦しいようでうなされている。
綺麗に化粧が施された顔に、思わず釘付けになるが
頬には涙の痕があった。
軽く拭ってやるが、そんな彼女が可哀想で、
俺はを抱く腕に力を込めた。
の鴉から宇随と任務に向かうと報告を受けたのがおよそひと月ほど前。
よもやこんなに長期間になるとは思わなかった。
と会わない時間が長くなれば長くなるほど、
俺は、は今何をしているだろうか、任務は順調にこなしているだろうかなど、そんなことを多く考えるようになっていったと思う。
しかも向かった先は花街だ。
職業に貴賤はないが、恐らく、今回の任務はにとって簡単なものではないだろう。危険な目にも合うかもしれない。
そう考えだしたら止まらず、稽古や事務仕事に身が入らなくなってしまった。
千寿朗もがいない間、ずっと気分が落ちていたように思う。
もとより俺は任務で多忙なため、あまり家にはいない。
父上もあのような状態だ。
家族のような、姉のようなの存在は、すでに千寿朗の中で大きなものになっていたのかもしれない。
千寿朗のためにも、できるだけ早く我が家に戻ってきてほしい。
…もちろん、俺もそう思っている!
だが俺も花街での任務に合流すると宇随に伝えたところ、俺は適任ではないと大反対されてしまった。
それに初めから柱二名が出向くのも賢明ではないと。
そう言われてしまっては、こうしてここでの帰りを待ち続けることしかできなかった。
…だから、千寿朗から話題に触れてくれたことは、まさに渡りに船だった。
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