第10章 情景
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"見ていなさい"って 何をだろう…
不安な気持ちと、父があの短刀をどう使うのか気になる気持ちが混じり合い、
さっきまでの眠気などどこかへ飛んで行った。
「……。」
静寂だった空気が
シュッ…ザッ……っ…
一瞬揺れた。
本当に一瞬だった。
父の前には首を斬られ絶命している…怪物?が横たわっていた。
私は恐怖で動けなかった。
「お…とうさま…」
父は短刀を鞘にしまい、
振り返り私に目線を合わせるようにしゃがんでくれた。
「、ちゃんと見たか?
あれは人喰い鬼だ…。
…この短刀は鬼を滅するために使うんだよ。」
「うん…うん、おとうさま…」
父はそう言うとぎゅっと私を抱きしめてくれた。
私も父の向こう側で灰のようになって消えてゆく"鬼"がまだ恐ろしくて、めいいっぱいの力で抱き着いた。
そのまま父に抱き上げられ、道を進んでいく。
「……さぁ、、ここからはひとりで行くんだ。」
「…えっ?おとうさまは?
いっしょにきてくれないの…?」
「あぁ…。」
「どうして…?」
ずっと暗いあぜ道を歩いてきたかと思ったが、いつの間にか真っ暗な空間にいた。
私をおろした父は寂しさを纏った、私を慈しむような表情で見つめる。
「、強く生きるんだぞ。
お前はひとりじゃない、
私たちはいつもそばにいるからな。」
大きな焦燥感に駆られた私は、父から離れたくなくて駆け寄ろうとした。
しかし、
! と、背後から誰かに名前を呼ばれ、
振り向くとそこには杏寿郎さんがいた。
「杏寿郎さん!」
柔らかな春の匂いが鼻腔をくすぐる。
私は深藍の羽織をひるがえし、お日様に照らされた彼の元に向かう。
ふと 後ろを振り向く。
さっきまで、誰かと話していたような気がしたのだが
そこには誰もいなかった。
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