第10章 情景
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「ゆうやーけこやけえの、あかとーんーぼー…
きゃー!オニヤンマだ! おとうさまこわいっ!」
真っ赤に染まった茜空。
秋に入ったころだが、今日は日中温かかったので
夕方になっても暑くもなく、寒くもないぬるまったい空気に辺りは包まれていた。
私は…父の背中におぶられて家への帰り道を歩いていた。
背の高い父におんぶされていると、なんだかいつもと同じ風景がまるで違って見える。
別世界にいるようで胸が弾むのだ。
足をばたつかせて体も左右に揺さぶる。
「おぉっと」
父も楽しそうに、わざと横に倒れるふりなどして私をからかう。
悲鳴を上げ、ケラケラと笑い
父の背中から落ちないようにぎゅーっとしがみつく。
大好きな、この背中に。
随分長い間歩いている気がするのだけれど、まだ家には着かない。
気が付くと辺りはすっかり暗くなっていて、少し眠たくなってきた。
父の肩に右頬をつけ、うとうとと微睡んでいると
突然父の足が止まった。
「…おとうさま…?」
私は顔をあげて父を呼んだ。
父は黙って私を地面に下ろした。
「…、よく 見ていなさい。」
そう言うと父は懐から短刀を取り出し、それを鞘から抜いた。
深い、深い、赤い色をした刀身。
それは、父の部屋にあるものの中で一番の私のお気に入りだったから、思いもよらないところでの登場に心臓が跳ねた。
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「こーらっ、勝手に触ってはだめでしょう?
お父様の大切なものよ。それに危ないから早くしまいなさい。」
「はぁぃ」
と言いつつも刀身の赤色から目が離せない私に母は寄り添い、私を後ろから抱きしめた。
「…これはね、のおじいさまの刀から作ったのよ…。折れてしまったから…。
だから、将来も、これを持っていればおじいさまがきっと守ってくださるわ…。」
「どうして? どうして刀はおれてしまったの?
それに、なんでこの刀はあかいの? ふしぎ!」
「……どうしてだろうねぇ…。」
きらきらと瞳を輝かせる私とは対照的に、その時の母の表情にはわずかに影が落ちていたと思う。
でもその時の私には、理由を知る由もなかった…。
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