第10章 情景
杏寿郎さんは黙ったまま男を私の上からどかし、
はだけた袷をすごい速さで閉じてくれた。
自分が着ていた羽織で私をくるみ、抱き起こして抱える。
そのまま、入ってきたであろう窓から飛び出でて、向かいの見世の屋根に着地する。
何処に向かっているのだろうか、屋根伝いに移動しているようだ…
依然無言でいる杏寿郎さん。
…少しだけ、こわい
でも、私はずっと焦がれていた人が側にいるという安心感でいっぱいなのだ。
杏寿郎さんの体のぬくもりと、体にしみる夜風の冷たさの対比が心地よい。
頭が重い…
……これが夢だとしたら、どうかこのまま…
杏寿郎さん、杏寿郎さん…と、心の中で唱えながら
私は彼の腕の中で 意識を手放した…。
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