第10章 情景
「…やっと効いてきたな。」
「……なん…っ…なの…?」
手を引かれ、私は体制を保っていられず男にもたれかかる様になる。
「酒に薬をいれたのさ、別に違法なものではないから…。
楽しませてくれよ。」
そう言うと男は私をひょいと横抱きにして立ち上がり、隣りの部屋への襖を開けた。
そこにはいつの間に用意されてあったのか、三枚重ねの布団が敷いてあった。
これからこの男に何をされるのかすぐに理解した私は
「やめて…」と男の胸を押し返そうとした。
しかし私のわずかばかりの抵抗などこの男に届くわけもなく、バフッと乱暴に布団の上に組み敷かれてしまった。
「…いゃっ……ゃだ…」
こんなのあんまりだ。
男の手つきは慣れているようで、器用に私の着物を乱してゆく。
遊郭で任務に就くことに、覚悟がなかったわけではない。
だが、こんな一方的にこちらに抵抗の隙を与えない場合もあるなんて、想像もしていなかった。
緋色の長襦袢の裾から太ももを撫で上げる男の手が、気持ち悪くて仕方ない。
抵抗しようと焦ったことで、よりいっそうお酒が回ってしまったらしい。
頭も朦朧としてきた。
(せめて、好いた方と……)
男が私の袷をぐいっと開き、肩口があらわになった鎖骨に唇を這わす。
「……っ…」
もうだめだ と目を閉じた時に浮かんできたのは橙色の……
「うっ!…っ…」
突然、男の力が抜け 私の上に倒れてきた。
何が起こったのかと重い瞼をゆっくりと開ける。
男は誰かに気絶させられたようだ。
私はその"誰か"を見ようと、視線を向ける。
ぼやける視界の輪郭がだんだんとくっきりしていく。
「きょ…じゅろ……さん…」
そこには、今まで見たことがないくらい冷徹な目をして
私の腹上の男を見る杏寿郎さんがいた。
…夢でもみてるんじゃないかと、思った。