第10章 情景
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「んっ…」
私は布団の中で、ひとりで目を覚ました。
昨晩は初めて見世に出て、美術商だという殿方に買われた。
指名を受けるまでの間、見世の中央寄りに座っていたのだが、
格子窓の向こう側に広がる景色は意外にも情緒に溢れており、新造たちの清掻に合わせて下足番たちが紐でつるした木の下足札の束をリズムよくカランカランと鳴らして合いの手をいれる音が心地よく感じられた。
初めてお客を相手にし、もし…そういう流れになったらと考えが止まらず、私は終始心ここにあらずといった感じだったのだが、
遣手婆が言っていた通り、本当に私は客の隣に座っているだけでよかったようだ。
それに昨晩の殿方はきれいにお酒を嗜まれる方だったので、お帰りになる際も「また来ます。」と小ざっぱりしており清々しかった。
(このような…ものなのかしら…)
と、私は寝ぼけ眼をこすりながら布団から身を起こした。
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その日から、私は毎日張見世に出ることとなった。
日中は芸事の稽古、夜は仕事 という日々が続き、
なんだかこの世界も、鬼殺の世界も基本はどこも一緒なのねと感慨深くなった。
今晩は数人の団体客の相手だった。
「…こないだもよぉ京極屋の男衆の一人が消えたんだってよ」
「お~怖いねぇ、この頃あの見世のそういう話多くねぇか?」
「な、鬼でも棲んでんのかねぇ」
("京極屋"…宇随さんが怪しいって言ってた見世だわ…。聞き出さなきゃ…っ)
「…鬼?…他にはどんなお話がござりんしょう…?」
「花魁、気になるのかぃ」
「えぇ、主さん、教えておくんなんし…」
少し顔を傾けて客を見上げるように見つめる。
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