第10章 情景
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宇随さんが言っていた通り、私は"付廻し"という座敷をもつ
そこそこ位の高い遊女となった。
自分の部屋をもつことができたのは良かったのだが、鳴り物入りで新参者が入ってきたということでか、
他の遊女の馴染み客から広まったのか、なぜか私の名は広く知れ渡ってしまったようだ。
(なるべく目立たぬようにしなくてはいけないのに…)
私は焦っていた。
鬼の情報を探るために潜入しているのに、悪目立ちしては意味がない。
今日も舞の稽古をしていると、遣手婆から声を掛けられた。
「、早いけど週明けから張見世にでてもらおうかね」
「え…っ、もうですか?…まだ2週間しか経っていないし、舞も上手に踊れてないわ…」
「心配しなくていいよ、あんたはお客の側でただ笑ってればいいのさ。芸事は他の遊女にやらせるよ。」
「そんな…」
「早くあんたに会わせろって、うるさいお客がたくさんいるんだ。お酌だけでいいからやっとくれ。わかったね?」
さっ稼ぐんだよ、という遣手婆に、
「…ぁぃ」と小さな返事しか、私はできなかった。
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「暮れ六つーーーー」
夜見世が始まる。
奥にいる楼主が、神棚に向かって拍子木を打つ音が聞こえた。
そのあとに見世の脇の席にいる新造たちが景気良く三味線の糸をはじき、清掻が始まったことを知らせた。
私は普段なら絶対着ないような派手な着物と華やかな化粧を施され、鏡台の前に座っていた。
鏡に映る自分の顔をまじまじと眺めながら、緊張で強張った頬に手を添える。
(大丈夫…。これは任務、鬼を倒すためよ…。)
そう心の中で唱え、私は階段を下り一階の張見世へと向かった。