第10章 情景
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「…………どうしてこんなことに……。」
私は今、花街、つまり遊郭の"荻本屋"という大見世に売られた女…ということになっている。
藤の家からここまでの道中で、宇随さんに「遊郭に行く」と言われたときは…
思わず聞き返してしまった。
あまりにもこの人と、"花街"という言葉が似合いすぎていたから、一瞬 遊びに行くのかと思ったのだ。
でもそしたら案の定「ばかか、ちげーよ!」と言われてしまい、宇随さんは事のあらましを話してくれた。
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これから行く花街に鬼が潜んでいるという情報を得た宇随さんは、中でも怪しい見世を絞り、内情を探らせるため彼のお嫁さん3人を(お嫁さんが3人いると聞いた時も仰天したのだが…)各見世に送りこんだらしい。
その鬼は気配の隠し方がとても巧妙で、
宇随さんが客として潜入した時も鬼の尻尾をつかむことができなかったのだ。
だから彼のお嫁さんたちに、客よりも"もっと内側"に入ってもらったというわけだ。
"男の極楽、女の地獄"
という言葉があるように、
男は遊郭に夢を見に行き、
女は男に夢を見せるために芸と春を売る。
遊郭とはそういう場所だ。
……私は宇随さんの話を聞きながら、だんだん嫌な予感がしてきた…。
「…宇随さん、もしかして私も……」
「そっ。にも見世に潜入して情報収集をしてもらいてぇんだ。」
「……。」
(…だいじょうぶ…かしら…)
と思った。
遊郭の、男女の、その、そういうの…
私ぜんぜん上手に立ち回れる気がしないのだけれど…
昨晩この男の頼みの内容を深く訊かず快諾してしまった自分を激しく呪った。
口を一文字にして、黙って悶々とそんなことを考えている私の気持ちを読んだのか、
宇随さんは、
「んな、心配すんなって!
遊女っつってもお前レベルなら初回から客と寝るような格にはならねえだろ。それに入ってしばらくは色々しきたりなり芸事なり学ばなきゃいけねーしな。」
俺がうまいこと言ってそう話しつけといてやるよ。と付け足した宇随さんはなんだが誇らしげだったけど…
私は自分がこの任務をうまくこなせるのか、心に不安な気持ちとして暗雲がかかったようだった。