第10章 情景
「…私?」
急に私に話を振ってきたので、少し驚いてしまった。
「んー…。私が鬼に殺されそうになっていた時、助けてくれた隊士がいたのね、その人が "弱き者を助けることは、強く生まれた者の責務だ" って言っていて…。
…私その言葉に感銘を受けちゃったのよね。
知っての通り、私は普通の人よりも頑丈な体を持ってる…
だから、せっかくならこの力を、人を助けるために使いたいって思って…。」
宇随さんは私の話を静かに聞いてくれていた。
亡き稔さんの顔が頭に浮かぶ。
「なるほどな…。…まぁ、野暮な質問だが家族とか反対しなかったのか?」
「昔の記憶がないの。気づいた時にはひとりで…。
そのあとすぐに鬼殺隊に入ったのよ。」
「…記憶喪失ねぇ……」
宇随さんは何か考えるように手を顎に当て、遠くを見つめていた。
「たまに家族…のような人たちが夢に出てくるんだけど、結局なにも思い出せなくて…」
「…まぁ、無理に思い出そうとしなくてもいいんじゃね?
思い出す時ってのは急に来るもんだしよ。」
伸びをしてから後方の床に両手をつけ、後ろに体重をかける姿勢になる宇随さん。
そうのんびり言ってくれると、なんだか胸の中で滞っていた気がすーっと流れていくようだった。
「あっ明日空いてるか? 任務に行くんだが女の隊員が必要でよ、来てくれると助かる。」
顔の前で"たのむっ"と両手を合わせる彼。
そんな風に言われたら断れない。
”えぇ、もちろん" と快諾した。
明日は煉獄家へ戻り、いつも通り杏寿郎さんと鍛錬をする予定だった。
しかし音柱直々に頼まれてしまったのだ。
杏寿郎さんもきっと了承してくれるだろう。
鴉を煉獄家に飛ばし、報告しなけれは…
そう脳内で段取りをとりながら、宇随さんに就寝のあいさつをし、ほんのり藤の匂いのする布団にもぐりこんだ。