第10章 情景
("音柱"の宇随さん……
……随分背の高い人なのね)
柱とはいえ、こんなに大きな人があそこまで気配を殺せるなんて、にわかには信じられなかった。
しかし、彼の話を聞いていく中で、
宇随さんは剣士ではなく元忍だったことを知った。
どおりで…と、私は腑に落ちた。
彼の所作や筋肉の付き方、剣術を極めていてもこうはならない。
一言に鬼殺隊と言っても、色んな隊員がいるのね…
宇随さんのお話はどれも面白く、一緒にいてとても楽しかった。
鬼殺隊内部の話や、宇随さん自身の話。
中でも、柱たちの話はすごく興味深かった。
杏寿郎さんからも他の柱の話を聞くこともあるのだが、
彼はあまり人の話をあれこれするタイプではない。
だから、宇随さんのちょっとウィットの効いたお話は、私の好奇心を大いにくすぐった。
「…それでな? 富岡っていう水柱がいてよ、ぜんっぜん笑わないやつで、……」
「…うんうん、」
なんと以前、お館様からの命で富岡さんという水柱を笑わせようと、柱全員で知恵を絞ったことがあるらしい。
その時の杏寿郎さんの案で彼が実際にやったことが、
自分の頭の上にある眼鏡を探すという…
……なんとも、なんとも言えないネタだったそうだ。
「……ほんっと、あの時の空気の寒さと言ったら地獄のようだったぜ」
おーこわ、といたずらっ子のように笑う宇随さん。
杏寿郎さんらしいわね、と
私は杏寿郎さんが "めがねめがね" と言ってふざけている様子を
頭の中に描いてふふっと笑う。
どうやら、私は宇随さんと合うらしい。
私たちはさっき会ったばかりだが、もう軽く冗談を言い合えるほど仲良くなってしまった。
彼といると、笑いが止まらず気分が高揚する。
(やっぱり、今日はこの藤の家に来ることにして良かったわ…)
そう思いながらケラケラ笑っていると、
宇随さんの纏う雰囲気が少し硬くなったのを感じた。
何かまた話し出すのかと私も笑いを収めようとする。
「…そういや、お前はなんで鬼殺隊に入ろうと思ったんだよ」