第10章 情景
(宇随side)
(あれがお館様が仰ってた "白羅族の" か…)
なんだよ地味な奴じゃねぇか。
俺が昔おじい様から聞いていた白羅族ってのは、
もっと血気盛んで殺気を飛ばしまくっている奴等という印象だったが…
見たところ彼女にそんな特徴はない。
むしろ逆だ、
涼しげに美しく、どこか飄々としている。
というより……憂い?って言うのか、
どこか儚げだよな…なんて思っていると、
急に彼女がこちらに何か投げてきた。
(…気づいてたのかっ)
避けるのも癪だったので飛んできたものをパシッと取る。
…ただの小石だった。
「おいおい、ひどいねー石投げるなんて。…ちゃん?」
「あなたは…?どうして私の名前…」
俺に警戒してるようだ。
無理もないよな、俺地味に不審者みてぇだったし。
「煉獄だよ煉獄。あいついつもお前の話してっから、嫌でも覚えるっつーの」
小石は手の上で何回か投げて遊んだ後その辺に捨てた。
「そして俺は音柱の宇随天元だ。よろしくな。」
彼女にこれ以上警戒心を持たれないよう、
からは少し離れた縁側に腰を掛ける。
「柱の方だったのですね。大変失礼しました。
…宇随さんはどうしてこんな時間にここに?」
「いや、気にすんな。こっちこそ悪かったな驚かせて。
ん~月が綺麗だったから?外に出てみたんだよ。」
"…そうですか" とは納得した様子だったが、もちろん嘘だ。
ずっと会ってみたかったんだ。白羅族のに。
でも顔見知りでもなければ接点もない俺が彼女とゆっくり話のできる機会をつくるには、こうして藤の花の家紋の家での鉢合わせを狙うしかなかった。
「…確かに、今日の月は綺麗ですねぇ…」
ついっと爪で髪を掬い、耳にかけた彼女の仕草が色っぽくて、つい目が離せなかった。