第10章 情景
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「……ふうっ…」
私は藤の花の家紋の家の縁側に腰かけ、お風呂で温まった体が冷えないよう厚着をし、月を見上げていた。
あの後、そのまま煉獄家へ戻る予定だったのだが
山を下りる方向を間違えて反対側の麓に来てしまったのだ。
もう夜も遅いので帰るのは諦め、最寄りの藤の花の家紋の家で休ませてもらうことにしたというわけだ。
月は少し欠けた十三夜月だった。
それをぼーっと眺めながら、
私はさっき斬った鬼のことを考えていた。
直前まで気配がしなかったことや、そこまで強い鬼ではなかったことを踏まえると、きっとあの鬼は最近鬼になったのだろう。
"あの子に会える、ありがとう"
という、崩れ行く鬼が残した言葉と、鬼が歌っていたしゃぼん玉の歌。
あの鬼がどういった過去をもっているのか、想像に易く胸がむかむかした。
同情している…わけではない…。
あの鬼でも人を何人も喰っているのだ。
許すわけにはいかない…。
そしてさっきから、木陰からこちらの様子をじっと伺っている人物も、許すわけにはいかない。
私はそっと前かがみになり、足を触ると見せかけて側にあった小石を手に取った。
何事もなかったかのように体を起こし、
素早くその"人物"めがけて石を投げた。
…石が地面に落ちた音はしない。
「どなたですか?さっきから…」
縁側から立ち上がり、声をかける。
するとやっと、木陰からその人は姿を現した。
それは小町鼠の色の着流しを着た、色男だった。