第10章 情景
…どれくらい歩いたのだろう。
もうかなり長い距離を移動した気がする。
道であった道はいつの間にか獣道のように狭くなっており、草が生え散らかっていた。
途中で川が流れる音が聞こえたので、そちらに向かおうとしたのだが、なかなか川が見つからない。
そうこうしているうちに山の上の方まで来てしまっていたようだ。
「…いないわね……下りましょう」
鬼なんて知りません と山に言われている気がする程、
おかしいくらい鬼の気配は感じられなかった。
どの方向から来たのかすらわからないくらい、辺りは木々が茂っており
やはり音を頼りに川を目指して進むことにした。
「あぁ、あった…」
やっと川までたどり着いた。
山がとても静かだったから、音が遠くまで響いていたのだろう。
しかし…。川の音に混じって人の声も聞こえた。
声が聞こえた方向を向くとそこには…
川に向かい、ひときわ大きな石にちょこんと腰かけた女の人……いや、鬼がいた。
「……しゃぼんだまとんだ、やねまでとんだ
…やねまでとんで、……こわれてきえた…」
(歌…歌ってるの…?…すごく、悲しそうな声……)
私の足はその鬼に引き寄せられるように進んでいて、
パキッという小枝が私の足に踏まれて折れる音で我に返った。
…我に返ったのは私だけではなかった。
鬼もまた私に気が付いたようで、歌うのをやめゆっくりとこちらに振り返った。
その鬼は…鬼の顔は……まるで普通の人と変わりなく、
私と同じころの年齢に見えた。
…少しの動揺。
でもここに長居は無用。鬼への慈悲も無用。
「あら…わたしの可愛い子ども……いつの間にかこんなに大きくなって………」
鬼は岩の上から降り、こちらに手を伸ばし歩み寄る…しかしその歩みはどんどん早くなり、鬼の顔も、"鬼らしい"顔となった。
…私は鬼を斬るだけ……
呼吸を整え、刀を構える。
「炎の呼吸、壱ノ型……不知火…!!」
ザシュっ…
難なく鬼の首を斬ることができた。
鴉が言った通り、私一人で十分な任務だった。
崩れゆく鬼を見やる。
「……。」
「……これで…あの子に、会える……
…あり…が、…とう……。」
「…!」