第10章 情景
千寿朗君が用意してくれたお昼ご飯を食べ終わり、私たちは少し休んだ後また稽古を再開した。
先ほどのように杏寿郎さんと打ち込みをしていると、私の鎹鴉が側にとまった。
「カ~アっ!!カァっ!ニンムッ!ニンム~!
ヒガシノヤマノフモトっオニがデタっ!コンヤっムカエ~!」
「む!鬼が出たか。俺も行こう!」
「キョ~ジュロウハマツッ!」
「…ですって」
鴉が即答したので、キツネにつままれたような顔をした杏寿郎さんを見て笑ってしまった。
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「じゃぁ、行ってきます。」
「本当に俺はいかなくていいのか?」
「大丈夫。鴉もいいって言っていたということは、そんなに厄介な鬼ではないのでしょう。」
「うむ…。だが気を抜かず、頑張るのだぞ!」
「さん、お気をつけてくださいね!」
二人にもう一度"いってきます"と言い、刀を腰にさして私は家を出た。
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目的の場所へは、思いのほかすぐに到着した。
じきに日が沈むという頃、辺りが完全に真っ暗になる前に様子を見て回ろうと思った私は、少し歩いてみた。
なんっにもない、ただの田舎道だ。
このあたりには民家もないようで、人は住んでいないようだ。
(なぜこんなところに鬼が…?)
このただ一つの一本道は、山の奥へ向かって続いている。
(ここを通る旅人を狙っているのかしら…)
様々な憶測が浮かんでくる中、私は日の出ている時間帯は山で隠れていたであろう鬼を探すため
その道を上っていくことにした。
歩みを止めず進んでいく。
日は完全に落ちたようだ。
辺りは真っ暗になり、ホー…ホー…とミミズクの鳴き声が聞こえる。
夜の山は少し苦手だ。怖いから。
…杏寿郎さんもいたらなぁと、無意識に考えてしまっていた。
そんな自分にはっと気が付いて両頬をぺちんと叩く。
(甘い!だめよ、集中しなきゃ…)
鬼の気配を探るために気合を入れなおす。