第10章 情景
…カンッ、カンッ…!
今日は杏寿郎さんとの稽古の日だ。
「どうした!もう終いか!!?」
「はぁっ、はぁ…まだまだっ…!」
杏寿郎さんの稽古は予想以上にきついものだったが、どうしても降参したくない私は、いつも疲れた体に鞭打って稽古を続けた。
杏寿郎さんの、「ここまでにしよう!」という声を今日もじりじりした思いで待っているのだが、今回はなかなか終わる様子がない。
(まずい…もう、集中力が…)
バチンッ!!
「っ…!!」
杏寿郎さんの打ち込みを反射的に左腕で防いでしまった。
「すまん!!」
「いえっ!私ったらまた…。癖が出てしまったわ…。」
クッと手首に響く痛みをこらえ、落としてしまった竹刀を拾う。
「うむ…今の防ぎは見事だったが、もし俺の竹刀が真剣であったなら、君の手は両断されていただろう。」
「はい…」
「状況によって技を使い分けるのは良いことだ。だが実際に鬼と戦うとき、もし今のように無意識で手を出してしまったら、君は余計に怪我を負うことになるやもしれん。そうなると守れるものも守れなくなってしまう。」
「はい…!お勉強させていただきます!」
杏寿郎さんの言葉が胸に刺さる。
彼の言うことはもっともだ。
感情だけではなく、頭も使って戦わねばいけない。
私は自分の甘さが悔しくなり、少し目を伏せ竹刀をぎゅっと握った。
…ポンっと頭の上に杏寿郎さんの手が置かれた。
見上げるとそこには太陽のような笑顔の彼がいて、
思わず…、思わず目をそらしてしまった。
私は、杏寿郎さんの笑顔が好きなのだ。いつも凛々しく、男らしいお顔がふわっととけるようで、すごく癒される…。
にやけそうになるのを必死に堪えているなんて、
きっと彼は露も知らないだろう。
「兄上!さん!お昼ご飯が出来ました、食べましょう!」
千寿朗君の声だ。助かった。
心の中の邪な気持ちを洗い流すように、はーい!と大きな声で返事をし、杏寿郎さんからそれとなく離れる。
行きましょうと声をかけ彼の竹刀を半ば奪い取るようにもらい隅に片づけ
千寿朗君のもとに駆け寄った。