第9章 こんにちは千寿朗君
「こんなことを言うのは、どうかとも思うのですが…」
「うん?」
「あの上弦の参との戦いで、兄上を守ってくださり本当にありがとうございました。…俺、さんにずっとお礼が言いたくて…」
…私は千寿朗君の予想外な言葉に思わず呆気に取られてしまった。
「……あの鬼の腕が、もし兄上の腹部を貫通していたらと考えると、今でもぞっとするんです…。もしかしたらあの日、兄上はここに帰ってこなかったかもしれないなんて…
…とても怖かった……。」
「あなたは、身一つで柱である兄上までも守ることができる。すごくかっこいいです…俺、憧れます!」
千寿朗君の言葉を、私は黙って聞いていた。
「…ありがとう。でも、憧れるなんて言ってくれたの、千寿朗君だけよ?
…番傘をさして街を歩けば、好奇の目で見られる。
傷を負ってもすぐに治る体を見た人の、驚く表情の中に見える…人じゃない別の生き物を見ているような感情?のようなものを感じて、私はどんどん空虚な気持ちになっていったわ…。」
「そんな……さんは、すごい人です…!
…まだ刀の色も変わらない俺なんかより、ずっとずっとすごいです!さんに何か言ってくる人は、俺が退治します!」
「ありがとう、千寿朗君。それじゃあ千寿朗君がいてくれたら、私はどこでも無敵ね?」
「はい!もちろんです!」
頬を膨らませて怒る千寿朗君が愛らしくて、私はクスクス笑った。
杏寿郎さんは今日も任務で、今朝方早くに家を出ていった。
大切な人が無事に帰ってくるのを祈りながら待っているのはどんな気持ちなのだろう。
千寿朗君はまだ隊士ではないが、兄が鬼を滅し、無事に家に帰ってくるのを誰よりも願っているという意味では、一緒に戦っているのと変わりはないのではないかと、私は思った。