第9章 こんにちは千寿朗君
「お初にお目にかかります。
本日から杏寿郎さんの継子としてお世話になりますと申します。どうぞよろ「継子がなんだ。くだらん。勝手にしろ。」
「…っ」
「父上っ!」
「…煉獄さん、私は大丈夫です。」
部屋は酒の匂いが充満していた。
乱雑に敷かれた布団の上にだらりと身を寝かせた煉獄さんのお父様、槇寿郎さんは、
その時私たちに一度も顔を向けてはくれなかった。
部屋を出た私は、煉獄さんの少し後ろをついて歩く。
お庭の梅の花のつぼみが小さくつき始めており可愛らしい。
…その場では煉獄さんを心配させないよう平然を装っていたけれど、
私は以前、稔さんから聞いていた想像の中の槇寿郎さんと
先刻会った槇寿郎さんが同一人物に思えなくてとてもショックだった。
…どうして、あんなこと言うのかしら…
「…父上は昔からああではなかったのだ。先ほどはすまない。」
ぼーっと煉獄さんの背中を見つめていたら、彼がそう話し始めた。
煉獄さんが謝ることではないと思ったので慌てて否定する。
槇寿郎さんがあのようになられた理由を聞こうとしたのだが、
「兄上、さん、お茶の準備が出来ました。」
と、ひょっこり襖の間から顔を出した千寿朗君に動転してしまった。
…そして今に至るのだが……
…さっきから横にいる煉獄さんの視線が痛い
もう、なんなのだろう。気になっておしゃべりに集中できないわっ!
「…っ、煉獄さん、何かついてます?私の顔。」
こちらも少し拗ねるように彼を見返した。
「いや!すまん。考え事をしていた。」
「人の顔見ながら考え事しないでくださいっ。
……何を考えてらしたんですか?」
教えてくれますよね?とでも言うように、ねだるように訊くと
「うむ、。俺のことは杏寿郎と呼んでくれないか?」
「えっ?」
…なんでこう、いつもこの人は唐突なのだろう。しかも結論からはっきり話すから、聞いてるこっちは吃驚する…
突然なんだと思ったが、理由は単純だった。
ここは煉獄家。煉獄さんは3人いるわけで、区別するためにも下の名前で呼ぶ方が良いだろうということだった。