第9章 こんにちは千寿朗君
「……さん…ですよね? はじめまして!弟の千寿朗と言います。 さんのお話は常々、兄から聞いてます。」
そう言う彼、千寿朗君の表情は、もともと下向きの眉をさらに下げたり、かと思えばきらきらと瞳を輝かせたり忙しい。
しかし複雑な面持ちなのには変わりなかった。
「あのっ……お腹の怪我は、本当にもう大丈夫なのですか…?」
この一言。
彼の、遠慮がちな声が紡ぐこの一言で、互いに初対面ながら、千寿朗君が私と煉獄さんの出会い方、それと私が特殊体質であることを知っているのだと察した。
体質のことは別に隠しているわけではない。鬼殺隊員としての、私の武器だ。
でもそれをすんなりと受け止めて理解してくれる人は少ない。
故に、一部の人からは引かれたり気持ち悪がられることもしばしばある。
だから動揺したのだ、少し。千寿朗君にそう言われて。
「…はじめまして、こんにちは。千寿朗君…って呼んでもいいのかしら?」
「あっ…はい!」
「心配してくれてありがとう。でも、もう怪我はすっかり良くなったのよ。」
私は赤い帯の上から、自分の腹部を ポンッ と叩いてみせた。
ふふっと私が笑ったので、千寿朗君も本当に安心したのだろう。
安堵と喜びの笑みを浮かべてくれた。
「よかったです…!俺、すごく心配で…知らせを受けた日の晩は眠れなかった程です…。」
「まぁ…そうだったのね。 これからは千寿朗君にそんな思いをさせないくらい強くなるために、鍛錬をがんばるわ。
よろしくね、千寿朗君。」
「うむ!いい心構えだ!」
「いえっ、そういう意味で言ったのでは…!…俺もまだまだ修行の身です。こちらこそ、よろしくお願いします!
お疲れのところこんなところで立ち話をしてすみません。どうぞ、中へお入りください。」
千寿朗君に促され、私たちは古風で重厚な煉獄家の門をくぐった。