第9章 こんにちは千寿朗君
……ズズッ…
「うまい!!!!!」
「ふふっ」
「ありがとうございます、兄上」
なぜか俺はと千寿朗に笑われてしまった。
俺が料理や茶の感想を言うと、周りの者はいつもこうなのだ。
だがうまいものはうまいと、正直に伝えなければ。
千寿朗が淹れてくれた茶をもうひとくち口に流し、隣に座るに目を向けた。
少し俯いて湯呑を口に運ぶ。
思わずまた、そのうなじに見惚れそうになる。
「また」というのは、先の毬の少女とやり取りをしていた時も同じことが起こっていたからだ。
俺の前では気を張っているのか、
あの時少女の前でのは、いつもとは違う、柔らかく自然な表情を見せていた。
好きだ。
兄弟子を失い、弱い自分を責めて気を詰めるよりも、着物を贈った時や、少女とふれあっていた時の、とても嬉しそうに笑っている彼女の方が、俺は好きだ。
喪失は身を裂くようにつらいだろう。
だがその痛みは必ず己をさらなる高みへと導いてくれる。
もう君が親しい誰かを失い、自分を責め悲しい顔をすることがないよう
俺が責任をもって強く育てるから…
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「ふふっ、そしたらね、そのお店の旦那さんが……」
「…はい、えぇっ!」
私は今、煉獄さんの弟さんの千寿朗君が淹れてくれたお茶と、ここに来る途中で買ってきたお菓子をつまみながら楽しくおしゃべりをしている。
(千寿朗君、本当にかかいいわ…)
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ー
私たちが煉獄さんのお宅に着いた時、千寿朗君は門の前で掃き掃除をしていた。
手を振る煉獄さんに気が付いたとたん、パァと彼の表情が明るくなった様も、また可愛らしかった。
一目で、煉獄さんの弟さんだってわかった。
橙色の髪の毛は毛先だけ赤く染まっていて炎のよう。
顔立ちだって煉獄さんとそっくりだった。驚くほどに。
唯一異なる優しげに下がった眉毛は、千寿朗君の性格そのものを表しているみたいだ。
しかし、その千寿朗君は煉獄さんの隣を歩く私を見るなりとても悲しそうな顔になった後、深くお辞儀をした。