第8章 面影
「そうだったのですね…。それではお言葉に甘えて、入用の際は着させていただきます!…あっ!街、見えてきましたね」
この坂を下った先に、建物が集まっているのが見えた。
あれが煉獄さんが言っていた市街地なのだろう。
賑わいのある所に行くのは久方ぶりで、心が浮き立つ。
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街には老若男女、たくさんの人で溢れかえっていた。
人の合間を縫うようにすいすいと歩みを進めていたら、
「、ここだ」と煉獄さんの声が少し後ろで聞こえた。
重厚な雰囲気を纏った大きなその店は、大路地の角にどっしりと構えられていた。
「これはこれは、杏寿郎様ではありませんか!お元気そうで何よりでございます!」
この店の主人だろうか、中から中年の男性が出てきた。
「うむ!久方ぶりだな主人殿!今日は彼女にひとつ、着物を見繕ってくれないか?」
「おやまぁ、杏寿郎様…ついに良い方がお出来になったのですね…。ささっ、中へどうぞ!今家内を呼んできます」
そういって店の主人は奥へ行ってしまった。
"良い人" というのは恋人のことだろうか
「………。」
「………むぅ…。」
呆気にとられた私は煉獄さんの方に顔を向けると、彼も同じことを考えていたのか目が合い一瞬時が止まった。
「………よもや!主人は勘違いをしているようだな、訂正しなければ!」
「えぇ、そうですね、きちんと師弟の間柄とお伝えし「ま~ぁまぁまぁまあ!杏寿郎様、よくぞいらっしゃいました!それにしてもお似合いなお二人だことっ!トシは杏寿郎様についに恋人ができたこと、嬉しくて涙が出てきました…ご婚礼の衣装もぜひ、うちで用意させてくださいね~」
このトシさんというさっきの主人の奥さん…と思われる女性が私たちの顔を交互に見て勢いよくそう言うので
弁解を意気込んでいた気持ちはどこかへ飛んで行ってしまった。