第8章 面影
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そのまま煉獄さんは、私が泣き止むまで頭を撫でながら側にいてくれた。
「……さて、一人で眠れるか?もし寂しいようなら俺の部屋に来てもいいが…?」
二人の間に沈黙が流れる
いや、深い意味はないのだろう
前に弟さんがいると聞いた。
恐らくその感じで下の兄弟に言うような感覚で言っているのだろう。現に彼もしまったというように顔をこわばらせている。
子供扱いしないでくださいよ
と、その場を笑いに変えられることもできた。
でもしようとは思わなかった。
「お気遣いありがとうございます…寂しいですが、今晩はひとりで眠ります」
頭上にある彼の手をとり、胸の前で優しく握りながら答えた。
煉獄さんが一瞬固まったのが分かった。が、すぐに
「うむ!それではまた明朝。ゆっくり休むといい」
そして私たちはそれぞれの部屋に戻った。
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次の日、私たちはお世話になった家の人に挨拶をし、
煉獄さんのご実家へと向かった。
「俺の家へ向かう途中、市街地を通ることになる。、何か必要なものがあればそこで揃えていこう。」
側の松林に目を向けていた煉獄さんがこちらに振り向きそう言った。
…必要なもの
身の回りで足りていないものはないが、強いてあげるなら…
「お気遣いありがとうございます。そうですね…
着物を一揃え買っておきたいです。今は隊服しか持っていないので…
「そうであったか!うむ、それでは煉獄家がひいきにしている呉服店に案内しよう。きっとに似合うものが見つかるだろう。」
煉獄さんはにっこりと笑って私の顔を覗き込んだ。
それはとても嬉しい。
私は彼の顔を見返した。
煉獄さんは続けて、
「もし今後着物が足りなくなったら、俺の母上のものを着たらいい。亡き母上もお喜びになることだろう!」
煉獄さんのお母様。…お亡くなりになっていたのね……
「いけません!そんな大事なものをお借りするなんて…」
「はは!いいんだ。ぜひ着てくれないか?母上も生前、煉獄家に女子が来た時にその子らが着られるよう自分の着物を丁寧に管理していた。母上も本望だと思う。」