第8章 面影
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その日は、近くの藤の花の家紋の家で休息を取ることとした。
家の人の用意してくれた布団は、日中干していたのだろうか太陽の香りがして気持ちよい。
しかし反対に、私の心はあの兄妹を思い出しては、後ろ髪を引かれる思いがして落ち着かない。
態度にも表れていたのだろうか。
兄弟と別れてからここに来る途中、煉獄さんにも何かあったか?と心配をされてしまった。
感情を支配できないのは、未熟者の証…
そう思って、なんでもありませんとつい強がってしまった。
煉獄さんはそのあとも何か言いたげだったが、まっすぐ彼の顔を見て「大丈夫ですよ」と伝えると
そのあとはもう何も言わなかった。
だが今、こうひとりになるとやはり寂寥感に苛まれる。
目を閉じ眠ろうとすると、あの頃の楽しい思い出と稔さんの顔が浮かんでしまい、どうも全身がぞわぞわと震えてくる。
布団から起き上がり、縁側へ出て腰を掛けた。
空を見上げると、すでに月は2時の方向にあった。
…あの日もこんな夜だった。
天気が良くて夕焼けも綺麗で、星々も輝いていて美しかった夜。
今まで忘れていた、いや、思い出したくなかった光景が
脳内に鮮明によみがえる。
「ふっ……ふぅ………」
息がうまく吸えない。
苦しくてパニックになる。
膝を抱え、俯き
出てきた涙を寝間着に染み込ませた。
外は寒いはずなのに、背中にぬくもりを感じた。
肩から羽織を掛けられたのだと気づいたのは、顔をあげた横に煉獄さんがいたからだ。
「…こんなところにいたら風邪をひいてしまうぞ?」
その私を気遣う優しさに、また涙がこみあげてくる。
「んっ……うぅ…」
煉獄さんが目の前にいるのに止められなかった。
「…なにかつらいことがあったのだろう?
…俺には、なんでも話してくれないか?」
頭の上に彼の手のひらが乗った。それは大きくてとても暖かかった。その彼の手は私の髪を撫でつけ、涙を拭ってくれた。
そんなに年も変わらないであろう煉獄さんに、こんなことをされてしまうのは恥ずかしいはずなのに…私は拒むことができなかった。