第8章 面影
ヒュン……ヒュン………
私は木々の太い枝に、次々と飛び移り移動していた。
(鬼は、どこなの…)
頬を掠る風が冷たく気持ちいい。
眼下には細い道があり、私は注意深く周辺を見て鬼を探した。
しばらく進むと……いた。
目線の先には桃色と紺の着物が見え、鬼がそれらに向かって駆け出したところだった。
わたしは全身が強張った。
それは男の子が小さな女の子を鬼から守ろうと、
庇っている光景だったからだ。
…よみがえる
あの時の、光景が…。
「……っ、炎の呼吸、参ノ型 気炎万象!」
体の重心を前に思いきり傾け、足元の枝がきしむほどの踏み込みをする。
ザシュッ!!
私は鬼の首を斬り、そのまま空中で回転し着地した。
刀を握る手が震えている。
振り向くと子供たちも震えており、恐怖でだろうか
腰を抜かしていた。
刀を鞘にしまい彼らのところに駆け寄った私は、小さな手を握り、そのままぺたんと座り込んでしまった。
「…よかった………よかった…」
「あ、ありがとうお姉ちゃん…!助けてくれて、ありがとう!」
「うぅ………ありがと…」
彼らの手を額に寄せ、俯き泣く私にそう言ってくれた。
…あと数秒、私が遅れていたら……
この女の子は、私と同じ思いをしていたかもしれないと思うと慄然とする。
「大丈夫か!?」
煉獄さんが来たようだ。
太く、頼りがいのある声に心底ほっとした。
子供たちは彼の突然の登場に驚いたようだ。
握っていた手が少し引いたのを感じた。
煉獄さんは背後で崩れ行く鬼を一瞥し、
「、よくやった、鬼を斬ったんだな。君たち、怪我はないか?」
「うん……うん!大丈夫!」
「ふ、うぇぇ~ん…」
女の子が堰を切ったように泣き出してしまった。
安心したのだろう、これまでよく泣かずに堪えた。
「…おいで」
私は泣く女の子を優しく抱きしめ、落ち着くまでそうしていた。
私もまた、動揺する自分を鎮めたかったのかもしれない。