第7章 夢か現か
「私は…。苗字はちょっと覚えてなくて…
だからって呼んでね。
おかげさまで、今はもうこんなに元気になりました、
心配してくれてありがとう。君たちのこと、よく覚えてるわ。」
「えっ、苗字を覚えていないって…」
「…昔の記憶がないの。気が付いたら神社にいて…
…あっ!私の刀、どこにあるかしら…?」
驚いたように尋ねる炭治郎に、私は話を変えるように刀について訊き返した。
「…実は……」
あの時、炭治郎は逃げる猗窩座めがけて私の刀を投げてしまったらしい。それからは行方がわからなくなってしまったと話してくれた。
「本当に、すみません。俺、あの時すごく感情的になってしまって…さんの大切な刀を…」
炭治郎が心から謝罪をしているのが伝わる。
それに、刀を預けてもしもの時に使えと言ったのは私だ、怒る要素などどこにもない。
「いいのよ、気にしないでね。それより、みんな無事で本当によかったわ!」
そう笑顔で伝えると、炭治郎もほっとしたように頬を緩ませた。
その隣で善逸は、なぜか鼻血を垂らしていた。
「あら、目覚められたのですね…!よかったです。」
斜め後ろから美しい声で話しかけられ振り向くと、そこには小柄だが落ち着いた雰囲気を持つ、綺麗な人がいた。
私は彼女に挨拶をし、少し話をした。
彼女はここ、"蝶屋敷"の主人で、鬼殺隊最高位の柱でありながら、怪我人の治療にあたることもあるという。
私もまた、ここで彼女に手当をしてもらっていたようだ。
「治療をしてくださって、本当にありがとうございました。おかげさまで、また任務に出られます。……すごい方なのですね、胡蝶さんは…」
「”胡蝶さん”なんて、やめてください、"しのぶ"でいいですよ」
深い紫色の瞳を輝かせ彼女はそう言い、顔を傾ける
「ふふっ、ありがとう、じゃあ…しのぶちゃん?」
私がそう言うと、しのぶちゃんは満足そうに頷いた。